猫の らんこ  マウスで遊んであげてね^^

2009年03月11日

国立西洋美術館 女性画家の自画像

マリー=ガブリエル・カペ

国立西洋美術館は、東京で最も好きな場所の一つです。
今はルーブル美術館展で大変にぎわっていますが、
館蔵コレクションにも、素晴らしい作品が多数あるのは、言うまでもありません。

国立西洋美術館はフランス政府から寄贈返還された松方コレクションを元に、
西洋美術に関する作品を広く公衆の観覧に供する機関として、
1959年4月に発足し、今年で50年を迎えます。
芸術新潮の2月号では「西洋美術館の全て」と題して
国立西洋美術館特集を組んでいました。

「女流画家に一目惚れ」という題で、高橋明也氏が、
マリー=ガブリエル・カペの自画像について紹介していました。
カペの自画像は大好きな作品なので、思わず嬉しくなってしまいました。
この絵は、松方コレクションではなく、
近年、国立西洋美術館のスタッフが蒐集したものです。
最初にこの絵を見たときに、溌剌として生命力あふれる美しい姿に
どきりとしたものです。
これが女性の描いた自画像だと知り、新鮮な驚きを覚えました。
フランス革命直前の1785年の作品と知ってまたびっくり。
西洋美術館の解説には、以下のように書かれています。

18世紀のフランスは、女性たちが社会のさまざまな場所で活躍し始めた、
いわば女性の時代であった。美術においてもそれは例外ではなく、
18世紀の末にはエリザベート・ヴィジェ=ルブラン
アデライード・ラビーユ=ギアールという二人の傑出した画家が
女性として初めて王立絵画・彫刻アカデミーの会員となったのを皮切りに、
女性芸術家が相次いで社会に進出した。

リヨン出身で、パリでラビーユ=ギアールのアトリエで学んだカペは、
こうした当時の新進女性作家のひとりで、
フランス大革命直後の1791年のサロンでは、
そこに出品した21人の女性画家に名を連ねている。
ホルダーにはさんだデッサン用のチョークを片手に画架の前に立つこの自画像には、
溌剌とした22歳の若い作者の初々しい面影が見事に捉えられている。
胸元の大胆に開いた青いサテンのドレスは当時の流行の衣装で、
共地の青いリボンと相まって18世紀の華やぎを伝えている。

しかし同時にここには、ロココ風の官能性と共に、
新時代を予告するような簡素で直截な表現が現れている。
すでにフランス大革命の嵐は目前に迫り、美術の世界でも、
偉大な過去の古代文明であるギリシャ・ローマ美術への理想主義的関心や、
台頭する新しい市民階層に相応しいレアリスムへの志向が高まっていたのである。
画架に載ったカンヴァスの上にはうっすらと下書きが描かれているのが見える。
(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 56)


フランス革命の時代を画家として生きぬいたカペという女性は、
一体どんな人物だったのでしょう。
カペの自画像の前に立つと、彼女が微笑みかけてくれるような気がして
しばらくじっと見入ってしまいます。
私は絵を全く描けないので分らないのですが、
自画像を描くというのは、やはり勇気が要るのではないでしょうか。
若さと美しさを謳歌しているように見えるカペの自画像は、
潔く、清々しく、堂々としていて、同性として深いシンパシーも覚えます。
この作品の購入に関わったという高橋明也は、
カペの作品について以下のように書いています。

ここにあげた作品は、筆者が西洋美術館在籍時代に購入に関わった
何点もの作品のうちのひとつだが、その中でも思い出深いものに数えられる。
18世紀末、フランス革命前後の激動の時代を生きた作者のカペは、
これまでの西洋美術史ではほとんど無名で、美術アカデミーの
最初の閨秀画家のひとりとして名をはせていたラビーユ=ギャールのもとに
若くして弟子入りした。
ニューヨークにあるお師匠さん本人の「自画像」の後ろには
カペの姿がほほえましく描かれているが、
西洋美術館に飾られているのは、その僅か前に描かれた
22歳のカペ自身の「自画像」である。
未だ黎明期にあった「女性画家」の自画像としても貴重であるが、
何よりも若く希望に溢れる溌剌としたその画面が、
最初にパリのある画商の下で見たときに私の胸を打った。
値段もいわゆる「ビッグネーム」の画家とは比較にならないほどだった。

しかし、画廊主は個人的にこの絵を愛していて、自分のデスクの傍らに置き、
売り渋っていた。また、画家が無名な故に研究員の同僚たちを説得し、
購入委員会にかけるに至るまでは紆余曲折があった。
けれども今や、西洋美術館の絵葉書の売り上げの中でもトップクラスであると聞く。
また先日も「西洋美術館にカペという画家のとても魅力的な絵があるね。
すっかりファンになったよ」と語るオルセー美術館の友人がいた。
美術家としては決して誰もが知るような存在にはなれなかったカペだが、
そうした評判を耳につるにつけ、「彼女」がはるばる遠い日本にまで来てくれたことを
喜ばしく思う。そして同時に西洋美術館の収集が、
教科書的な「西洋美術史」を超えて個性を持ち始めた徴を実感するのである。
(高橋明也 「女流画家に一目惚れ」「芸術新潮」2009年2月号)


カペの絵を売り渋っていた画廊主の気持ちがよく分かる気がします。
絵葉書の売り上げがトップクラスだと聞くと、なるほどとも思えます。
その絵葉書は、私のパソコンの横で、今夜も明るく微笑んでくれています。
posted by 橘かがり at 02:08 | TrackBack(0) | 美術館・展覧会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月16日

japan蒔絵展 王侯貴族の夢のあと

蒔絵

サントリー美術館「japan蒔絵展」を見に行きました。
chinaを陶磁器と呼ぶように、小文字でjapanと書くと漆器を意味すると習ったのは、
中学の時だったでしょうか。その頃は漆器の魅力をまだほとんど知らなかったので、
少し不思議な印象を持ちました。

日本の漆器は世界的に名高く、特に金銀を用いて漆黒の地を飾る蒔絵は、
桃山時代に来日したヨーロッパの人たちを魅了し、
特注品が作られるほどになったといいます。
日本が鎖国をした後も、海外での蒔絵人気は途絶えることなく、
遠い東洋からもたらされた贅沢品として珍重され、
マリー・アントワネットら王侯貴族は、競って蒔絵を求め宮殿を飾ったそうです。

この展覧会はヨーロッパ各地に残された貴重なコレクションに、
国内で所蔵される国宝、重文を含む名品を加えて、240件を一堂に集めて展示しています。
大変充実した素晴らしい展覧会です。
展示構成は@中世までの日本の蒔絵、A西洋人を感嘆させた高台寺蒔絵
B大航海時代が生み出した南蛮漆器、C絶対王政の宮殿を飾った紅毛漆器、
D蒔絵の流行と東洋趣味、E王侯のコレクション、F万国博覧会
となっています。

蒔絵

キリストの磔刑図や聖母子像などを納める「聖がん」
ミサで用いる「聖餅箱(画像はイメージ)」、
聖書をのせる「書見台」など、南蛮人が注文した祭礼具にまず感激しました。
そしてヨーロッパの絶対王政の宮殿を飾った、輝くばかりの豪華な品々に目を奪われ、
しばしため息が出ました。漆の間のあるドールハウスの精緻な可愛らしさには、
思わず微笑んでしまいました。

特にマリー・アントワネットのコレクションは、
際立って優雅で洗練されていると思いました。
元々マリー・アントワネットの母親の、ハプスブルグ家の女帝マリアテレジアが、
大の東洋好きで、「私はね、ダイヤより漆器よ」と言うほどの漆器ファンだったそうです。
母の遺産として、約50点の蒔絵の小箱がマリー・アントワネットの手に渡ったのは
1781年のことだそうです。革命が起きるほんの数年前のことです。
これを機に王妃は、蒔絵を利用した家具を注文するなど、
漆器コレクションの充実を図ったと言います。
民衆が王制への不満を募らせていたときに、豪奢なコレクションに熱中していた王妃の
数奇な運命を思うと、複雑な気持ちになりました。
マリー・アントワネットの蒔絵コレクションは、質量共にヨーロッパ随一を誇り、
輸出用漆器だけでなく、日本国内用の香道具なども含んでいます。
王妃がどんな表情で日本の香道具を眺めていたのかと、興味は尽きません。
その他にもフランス革命時に没収された貴族の館の豪奢な品々が強く印象に残っています。

私が特に惹かれたのは、イギリスのジョージ・ソルテイングという
19世紀末のイギリスのコレクターのコレクションでした。
オーストラリアの農場経営で財をなした父親から、莫大な遺産を相続した彼は、
生涯独身のまま、ロンドンで美術品蒐集を生きがいにしたといいます。
遺言により、所蔵品の大半をナショナルギャラリー大英博物館
ヴィクトリア&アルバートミュージアムへ寄贈したそうです。
当時の価格で総額二千万ポンドとも言われたコレクションの遺贈は、
米国で記事になるほど話題を呼んだと書かれていました。

ソルティングは、作品の大半を信頼する美術商から購入したそうですが、
コレクションの充実ぶりは、彼の鑑識眼の素晴らしさを証明しています。
ソルティングが明代の壺を手にしている版画も展示されていましたが、
壺を愛でるまなざしは、彼がどれほど美術品を愛していたかを
深く物語っているようにも思えました。

蒔絵 蒔絵
posted by 橘かがり at 07:22 | TrackBack(0) | 美術館・展覧会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月13日

友人Yさんの書展を訪ねて

   
香の稽古仲間のYさんの作品が出展されている書展をお訪ねしました。
Yさんとは香の稽古で知り合い、それ以来ずっと親しくさせて頂いています。
書や日本画をたしなみ、着物のとてもよくお似合いの、素敵な女性です。
四年前から矢萩春恵先生に書を習っているとうかがっていましたが、
今回が初の書展ということで、
紀尾井アートギャラリー江戸伊勢型紙美術館に早速お祝いに駆けつけました。

  

Yさんの御作品は
・春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて冷やしかりけり(道元禅師)
・色はにほへど散りぬるを あさき夢みし
そして「香十徳」です。
感格鬼神  かんはきじんにいたる
清淨心身  こころをきよらかにす
能除汚穢  よくけがれをのぞく
能覚睡眠  よくねむりをさます
静中成友  せいちゅうにともとなる
塵裏偸閑  ぜんりにひまをぬすむ
多而不厭  おおくしていとわず
寡而為足  すくなくしてたれりとなす
久蔵不朽  ひさしくたくわえてくちず
常用無障  つねにもちいてさわりなし

Yさんは毎朝硯に向かい、雑念を払って気持ちを集中させてから、
創作に取りかかると聞きました。
作品を仕上げるまで何十枚も書き直したそうです。
お軸の表装まで、すべてYさんが選んで決めたといいます。
一つ一つの作品にこめた思いと意気込みが、強く伝わって来るようで、
近くでほれぼれと眺めさせて頂きました。
今回の書展に向けて、どれだけエネルギーを注いでいらしたか、
あらためてよく分かったように感じました。

   

帰り際に矢萩春恵先生にお目にかかることができました。
矢萩先生が入っていらしただけで、周りがぱっと明るくなるような
とてもあでやかで素敵な先生です。紫のお着物も、とてもよくお似合いでした。
矢萩先生の書「雪月華」は、はんなりとした中に芯の強さを秘めた御作品で、
書は人なりという言葉を、ふと思い出してしまいました。
斉藤翠恵先生からは、墨の選び方、紙の選び方について、詳しいご説明をうかがいました。

先生方も生徒さんも、皆さん艶やかで素敵な方ばかり。まさに百花繚乱。
咲き競う花の中を散策した時にも似て、たっぷり目の保養をさせて頂きました。

   
ラベル:書展
posted by 橘かがり at 00:33| 美術館・展覧会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする