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2014年11月30日

須賀敦子の世界展

20141122 ブログ須賀敦子展1 20141122  ブログ須賀敦子展2
posted by (C)橘かがり
連休初日の土曜、港の見える丘公園の坂道を、息を切らしながら駆け上りました。
目指すは神奈川近代文学館
16年前に惜しまれながら亡くなった須賀敦子さんに再会するために。
1990年61歳のときに須賀敦子さんは『ミラノ 霧の風景』を刊行し、
一躍注目を集めました。その後『コルシア書店の仲間たち』『ヴェネツィアの宿』など
次々と珠玉のエッセイを発表し、高い評価を得ました。
その作品群は「エッセイ」の概念をぬりかえるほどの衝撃を与えるものでした。
生前刊行したエッセイ集はわずかに5冊ですが、
須賀さんは13年過ごしたイタリアの風土や、そこで出会った人びとを、
生き生きと鮮やかに描き出しました。
タペストリのように緻密に織り重ねて構築された世界は、洗練された文章とともに、
多くの読者を魅了し、今なお愛され続けています。
神奈川近代文学館学芸員のN様より、同館で須賀さんの回顧展があるとお知らせ頂き
楽しみにしておりましたが、会期終了間際に、ようやく出向くことができました。
私が特に影響を受けた「シエナの坂道」と題された一節を、展示の中に見つけて
胸が熱くなりました。以前にもこのブログでご紹介させて頂いた一節ですが、
その一部を再び引用させて頂きます。
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はじめてのブック・レポートに選んだのが『シエナの聖女カテリーナ』という、十四世紀のイタリアに生きた女性の自伝で、著者はデンマークの作家ヨルゲンセン、大学の図書館にあったのは、アメリカで出たばかりの英語版ハードカヴァーだった。
五百ページもあったろうか、当時の私の読解力では、ただ読破するだけでも大変な大冊なのである。でも大学に入れたというので、私は牡牛みたいにはりきっていた。よおし、読んでやろうじゃないか。(中略)
ルネッサンスの夜明けの時代ともいえる十四世紀の半ば、シエナの染物職人の娘に生まれたカテリーナ・ベニンカーサは(中略)幼いとき、自分は神に呼ばれている、という確信を得て、神だけにみちびかれて生きることを選んだ。
すくなくとも、そんなふうに本には書いてあった。ヨルゲンセンによると、両親はこれを心配し、一日も早くいい相手をみつけて結婚させようとするが、ごうじょっぱりなカテリーナは、意志の堅いことをわからせようとして、長かった髪をばっさり切り落とし、自分の部屋にたてこもった。
「神に呼ばれる」とか「神だけにみちびかれて生きる」というような表現は、キリスト教の伝統のなかではごく日常的に用いられるもので、私がカテリーナの伝記を読んだころ、カトリック教会では一方的に「修道女として生きる」という意味に解釈されていた。
でも、カテリーナは修道院には入らない。髪を切りはしたけれど、彼女は、学問をおさめ、政治にまで関与した。
「神だけに導かれて生きる」というのは、もしかしたら、自分がそのために生まれてきたと思える生き方を、他をかえりみないで、徹底的に追求するということではないか。
私は、カテリーナのように激しく生きたかった。
(「シエナの坂道」『遠い朝の本たち』筑摩書房)

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この一節に出会った頃、私は政治や社会問題に関心をもちながらも、
社会運動に関わることに一抹の不安や躊躇を覚えていました。
政治について語ることをタブー視する雰囲気が、私の周りには確かにありました。
しかし須賀さんの本を読むうちに、背中を押されるように励まされ、
信念に基づいて、恐れることなく、政治や社会問題にも立ち向かっていこうと
思えるようになりました。
同時に、葬り去られた現代史の矛盾について、書いてみたいと考えるように。
それが私に与えられた、役割のような気さえして。

須賀さんは晩年には小説に取りくみ、病床で原稿を書き続けていらしたと聞きますが、
未完のまま、惜しまれながら天に召されました。
遺稿となった小説の冒頭の手書き原稿が展示されていて、不覚にも涙がこぼれました。
文学館で泣いたのは、はじめてかも知れません。
「自分がそのために生まれてきたと思える生き方を、他をかえりみないで徹底的に追求する。私も、須賀さんのように激しく生きてみたい」
閉館ぎりぎりまで粘り、数々のお写真や原稿や書簡に接しての帰り道、
石畳の坂道を下りながら、あらためてその思いを強くしました。
図録も大変充実した内容で、学芸員の方々のご尽力に、あらためて感服しております。
須賀さんは人生の師匠とも呼ぶべき、永遠の憧れの方です。


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posted by 橘かがり at 02:23 | TrackBack(0) | 美術館・展覧会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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